ブルーオーシャンでしか泳げない

日本とアジアで展開中のブランド「1carat」のCEO。 創業25年のデザイン会社主宰。撮る・歌う・弾く。

がんがん石の " あさりパスタ "

ご存知の方もいらっしゃるだろうが、私の最大の趣味は「料理」である。

趣味が高じて、2014年に「ダイニングレストラン」までオープンした。

 

今日は、料理に興味を持ち始めた「きっかけ」となった、忘れられない想い出を書こうと思う。

 

遥か昔、私が高校一年生の時だった。

新宿・歌舞伎町の「星座館」の地下のスパゲッティ屋。

それは雀荘を探していた時に見つけた ひょんな事で見つけた。

 

いつも腹が減っている高校生には刺激的すぎる「その芳しき香り」は、店に飛び込む充分な理由になった。

 

その店の名は「がんがん石」。

店内には、この店のオーナーである " 元キックボクシングチャンピオン " の富山勝治の写真が飾ってあった。

 

それほど広くはない店だったが、無垢の木で出来たカウンターが清潔感を醸し出していた。

 

当時のスパゲッティといえば「喫茶店」でたべるナポリタンやミートソースくらいしかなかった時代。

 

そのメニューには「あさり」「たらこ・明太子」「ホワイトソース」や、

おなじみの「ミートソース」。

 

それに「しめじ・しいたけ」「納豆」「野沢菜」「キムチ」などを

" トッピング " することが出来るという意味の文字が並んでいた。

 

制服を着たままの友人たちと " 外食する " という行為は、まさに大人の階段を登っている感覚である。

 

私は「あさり」を選んだ。

初めて食べる「和」のスパゲッティに完全に動揺していた。心が震えるほどに旨い。

「こんな美味いスパゲッティ食ったことねぇな!」

 

生のあさりからしか出ないという出汁は、超濃厚でコクのあるスープだ。

程よいとろみもあった。

 

おろしたてのエダムという名の濃厚なチーズが「あさりの出汁」と絡むと、

得も言われぬ旨味に変わっていく。

私たちは完全にハマった。もうほとんど雀荘の帰りに毎日通ったのだ。

 

がんがん石はカウンターの店なので、コック役とホール役は一人二役である。

「あさり」の汁を多めにかけてくれる " 足立さん " のシフトを何とか聞き出して、

わざわざ足立さんのいる時間に通った。

 

金が無い学生には「トッピング」をオーダーする " 勇気 " はない。

しかし、この世界に飛び込んだ以上、経験しないわけには行かないのだ。

足立さんのオススメは「納豆」だった。

 

「えっ? あさりとチーズと納豆?何か気持ちワリィな」

ほとんどの友達はそう言っていたが、私はその「未踏」の組み合わせに期待した。

「うまい・・・うますぎて何も言えねぇ」 

もちろん初めての味である。

 

「今日死ぬって言われたら最後に何食いたい?」と聞かれたら、

迷わず「がんがん石のあさり納豆」と答えるだろう。

そのくらい旨いのだ。

 

私は久しぶりに家のキッチンに立っていた。

あさりのスパゲッティを作りたかったからだ。

 

試作しては、家の者に無理やり「味見」させたが、

どうしても「あの味」にはならないし、

家の者の顔も決して明るくはない。

 

意を決して、足立さんにこっそり相談してしまった。

何が何でもこの味を自分で作りたかったのだ。

 

「300回・・・通ったらな」

 

クールな足立さんは、どうせ「300回」は通えないだろうと " 高を括って " 放った言葉だったはずだ。

 

そりゃそうだよな。秘伝の味を、そのへんの高校生に教えられるわけがない。

私はその後も何度も「あさりのスパゲッティ」を作ったが、結局あの味にはならなかった。

 

 

ところで、サイモンとガーファンクルSimon & Garfunkelの「スカボロー・フェア」という曲をご存知だろうか。

その歌い出しの部分を替え歌にして、みんなで足繁く通った。

「Are you going to がんがん石〜♫ あさーりしめじ野沢菜〜♫」だったっけな。

 

結果的に私と仲間は、高校卒業までに400回以上は通っただろう。

そしてもうすぐ卒業というある日、足立さんが私を呼んだ。

「望月、ちょっと厨房入ってこいよ」

 

以前、レシピを聞き出そうとしたことを覚えていてくれたのだ。

「このレシピはさ、お前の人生に必ず役に立つから覚えておけよ。卒業おめでとう!」

 

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足立さんに習った「がんがん石」のあさりスパゲッティ。

いまでも私はリクエストがあると、このメニューを自分の店で出す。

 

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「あさり/しめじ」に、納豆と野沢菜。24ヶ月物のパルメジャーノ・レッジャーノをすりおろし、海苔をかける。ちょっと海苔が・・・フヤケちゃった (笑)

 

35年作り続けたこの " 伝説の味 " 。

想い出はセピア色に褪せているが、味はあの頃のままだ。

 

機会があったら、皆さんにも是非食べていただきたい。

 

【追記】

がんがん石は、渋谷本店と自由が丘にも支店を出していたが、現在は全店ともに閉店している。

高校卒業後、仲間内の熱は大学へ行っても冷めやらず、仲間のうちの何人かはバイトもした (笑) 

 

先日、うちの店のカウンターに座られたお客様が、メニューを見て私に聞いた。


「この伝説のあさりパスタって、あの渋谷のがんがん石の・・・ですか?」

大学の頃、バイトをしていたとのこと。


「もしかして・・・今日、食べられますか?」

その女性のお客様は、懐かったのだろう。

泣きながら食べてくれたので、私も泣けてきた。

 

足立さん、あなたの言った言葉に嘘はなかったよ。

 

それじゃあ、また。